いつ頃になるかはまだ分かりませんが次回release予定のアルバムは、2020年「BEYOND THE FOREST」を制作した際と同じ強力スタッフで行ない、現在少しずつ作業を進めていただいているのですが、2020年当時のJAZZ雑誌の記事をふと目にし、随分と私も元気になったんだなぁと痛感します。
復帰して間もない手探り状態だったこともありますが、今は、「予測のできない旅」ではなくなっています。
今の私にはソロピアノは弾けません。でも5年前は、これをやらなければ先に進めない状態だったことが、はっきりと思い返すことができると同時に、私にはもう遠い昔の話になりました。
WEB上には、Jazz Journalist 杉田宏樹氏のinterview記事や、Micheal Pronko氏がレビュー記載して下さっていますが、藤本史昭氏の雑誌インタビュー記事をここに記録しておきたいと思います。
同じような形で録音・撮影していただいた今回、スタッフは同じでも、私の心の中は随分と明るく、共に音楽を作ってくれているミュージシャンたちに救われてきたんだなぁとつくづく思います。感謝の意を込めて。
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小林洋子というピアニストは、デビュー・アルバム(2001年『リトル・シングス』)の時から気にしていた。
繊細と大胆、伝統と過激が齟齬なく共存したその音楽は、優秀な若い才能が頻出していた当時のジャズ・シーンにあっても、特筆されるべきものであったと今でも信じている。
ところがある時期を境に、彼女の名はシーンから消えた。ジストニアを発症したのだ。
ジストニアとは、脳活動の異常により中枢神経に障害が起こり、局所あるいは全身の筋肉を意思通りに動かせなくなる難病で、音楽家にも罹患者は少なくない。2012年にこの病を発症した小林は、様々な治療法を模索し続けたが病状は一進一退。数年間はピアノから全く離れた生活を強いられたという。しかし根気強い闘病の甲斐あって2018年頃から徐々に病は回復の兆しを見せ、2019年には池長一美(ds)とのデュオ・ユニット「TheThird Tribe」を始動。
そしてこの度ついに、自身初となるソロ・ピアノ作「BEYOND THE FOREST」をリリースすることになったわけだ。
「復帰後はとても良い音楽活動をおこなうことができていますが、それと同時に音楽から遠く離れて毎日を送っていた頃の思いはいまだに消えることはなく、逆に色濃くなっていくような感じもありました。そんな思いの中、日々ピアノには向かって鍵盤に触れるたび、自然に次の作品を残したいという気持ちが強くなっていきました。ただそれは私個人の日々の思いによるものなので、メンバーを巻き込むわけにもいかない。だからソロ・ピアノということにしたのです。」
準備を進める中、しかし降って湧いたようにコロナ禍が世界を襲う。
「レコーディングの当日まで、決行か否か微妙な状況でした。もし1週間早かったら、あるいは遅かったらキャンセルになっていたかもしれません。録音で使用したLUXMAN HALLのピアノも数ヶ月弾かれていない状態。
でもこのピアノは、音楽から離れていた時期に何度か弾かせていただき、私を救ってくれた楽器だったので、どうしてもここで録音したかったのです。スタッフのみなさまのご尽力のおかげで、結果的には素晴らしいレコーディングになったと思います。」
アルバムのコンセプト・コピーは「月時雨の中を出発し、まだ見ぬ森の向こう側を目指す旅の物語」。
「昨年末くらいから、今までの人生を振り返ることも多くなったのですが、ある日ピアノに向かい、この世に生きていく道程、予測のできない旅を思い描いた時、目をつぶると、そこには深い森の向こう側にある景色を目指して進む光景が広がっていました。この時点で、即アルバム・タイトルはBEYOND THE FORESTにしようと決めました」
収録曲はすべて小林のオリジナル。それぞれに想像をかき立てられるタイトルが付けられている。
「インプロヴィゼーションの④以外は、すべてイメージがしっかりあってできた曲です。今回は曲順も先に決まっていたので、レコーディングではその順番どおり通して演奏しました。
どれも大切な曲ですが、特に印象に残っているのは1曲目の(月時雨)でしょうか。物語のプロローグとしてはぴったりだったように思います。アルバム・タイトル曲の(BEYOND THE FOREST)も難しかったけれど感慨深い曲です。
逆に苦労したのは、これまで録音では避けてきたブルース、それもスロー・ブルース(Bumpy Road)。
進んでいく人生のでこぼこ道を連想して自然にできた曲でとても気に入っているのですが、テンポ・キープやアドリブを展開していく上での構成がとても難しかった」
また本作は、録音やアートワークにも強いこだわりが感じられる。
「録音は五島昭彦氏。金田明彦氏制作によるDC録音システムを使用し、臨場感たっぷりの音を録っていただきました。ジャケット・デザインは竹下智也氏。氏にはPV撮影もお願いしたのですが、音楽をビジュアル化したような深い森の映像はそれは見事なものです。
またインナーのアート作品は、画家・内田美代子氏によるもの。私の思いとぴったりの作品に感銘を受けました」
世の中に当たり前に存在するものなど何もないことを思い知らされたおかげで、いろいろなものが愛おしく、音楽に関してもとても大事に愛情を持って奏することができるようになった、と小林はいう。
これは、そんな思いが美しく音の形を取った作品。感動である。
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私には、ひと昔もふた昔も前のことのようです。
ずいぶんとがんばったんだなぁって思うと、ドッと疲れを感じますが笑
時折、過去を振り返ることも大事な時があると思いますが、後どのくらい音楽やれるのか分からない中、やりたいことはたくさんあって、課題も山積みなのですが、人生今が一番だなって思えるのは本当に幸せなことです。
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