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執筆者の写真yoko kobayashi

真夜中の恐怖

急に眠気が襲う丑三つ時。

眠るの大好き人間の私は、眠れる幸せいっぱいで明かりを消す。


どのくらいの時間がだったのだろう。

目は瞑ったままだけど眠りから覚める。

ブーンぶーんブーンと音がして、

時々、部屋のあらゆるものにぶつかる音までしている。

アゴーギクとデュナーミクが半端ない。

恐怖で思わず顔まで布団をかける。


最初は、最近ニュースになっているサーキュレーターの故障かと思った。

恐る恐る布団から顔半分出してサーキュレーターを見る。

違う、暗闇の中で小さな起動ランプだけが煌々と光っている。

壊れていない。


「えーー⁈いったい何⁈」


その「ぶーん」という音は眠っている私を起こすほどに大きい。



何か大きめの蛾とか、まさかG⁈!

蛾もGも10年以上もしかしたらもう20年出くわしてないから、絶対にGではない!と自分に言い聞かせる。

もう何十年も蚊にも刺されていない(って誰かに言った時、それは蚊がいるようなところに行ってないってことでしょ?って言われたっけ?そりぁそうだ)


もし蛾だったら、あんなにぶつかってたら、鱗粉撒き散らしてんじゃないのー!

やだーー、もう恐怖に固まる。


皆そうだと思うけど、飛ぶ虫が超苦手、怖い。

だいたいほんとに虫?まさか雀ではないだろうし、、、雀だったらブーンじゃなくて高速パタパタだろうし、まずチュンチュン鳴くはずだ。



やっぱり虫だよ、どうやって家の中に入ってきたの?

何?何!何⁈ もうパニックだ。

一瞬、飛んでる物体の陰が見えた。

何あれ⁈


何者か分かったとしてもどうやって対処すればいいのだろう

必要がないから家には殺虫剤というものがない。あるのはコバエコナーズだけだー。

ダメだ!殺虫剤なんかかけられないし、かけれたとしても祟りがきそうだし、ああ神様ー。


こんな時、超高速参勤交代みたいにいかないものだろうか、もう意地と知恵で危機に立ち向かうしかない。


人は誰しも、慌てふためく時がある。

いつだって調子よく気分よく思い通りになんかいかない、と暗闇の中でちょっと冷静に考える。


するとカタッと音がしてブーンが聞こえなくなった。

えー、ど、どこに留まったのー!


目の前のこの暗闇に、私の知らない得体の知れない虫の類?と一緒に没していくのかと思うともう恐怖に震える。


待てよ、あのカタッという音は、カーテンレールだ、カーテンレールに留まったんだ。


ゔーーー、すぐそばじゃーん!


お願いだからまずはそこでジッとしてて!動かないで!と心の中で叫び、そーっとベッドから出て、何故だかテーブルの下に隠れた。


ちょっとそこのあなた、地震じゃないんだから、って思ったけど、自然に身体が動いていた。

何でテーブルの下?


さてどうする⁈

思い切って明かりをつけたらどうなるんだろう。

脳みそフル回転で考える、知恵を絞るには睡眠という生活習慣を改善する必要があるのに、得体の知れない見えないものに睡眠を妨げられているのに段々腹が立ってきた、というより恐怖を打ち消すには腹を立てないとやってられない。

恐怖に打ち勝つには怒りしかないと悟る。


待てよ、私が家に戻って明かりをつけた時点ではいつもと同じ、何の変わりもなかった。何の音もしていない。

大好きなKenny Kirklandの唯一のリーダーアルバムをかけ、いつものように過ごしていたはずだ。


ということは、私が明かりを消して寝て、急に真っ暗になったことに敵はパニックになり、むやみに飛び回ったのだろうか。


パニックなのは私なんだけど…..


でも家に戻ったのは23時半頃だったろうか、それまでは部屋も暗かっただろうに。

いろんな何故?が頭の中を駆け巡る。


まずは、留守中に虫みたいなものが閉め切った家の中に入ってくることがあるのかスマホで調べることにした。

すると、スマホ画面めっちゃ明るい、えー⁈これじぁ敵に居場所バレちゃうじゃん、ってなって、考えた末そーッと移動し、スマホ画面の明かりを遮るためのバスタオルを取りにいく。


あ!この洗面所で電気付けて調べられる、と思ったけど、それはそれで、めっちゃ怖い!


何故なら、今はカーテンレールに留まってるのが分かっているけど、私が洗面所で調べてる間に、どこかに移動したりしたら、しかもどこにいるか分からないなんてもう「ヒェー!」だ。


仕方がない、またテーブルの下に恐る恐る戻ることにする。

音はしない、敵は眠りについたのだろうか?


私は眠りたくても眠れない。

どうしてくれるの⁈


スマホ画面遮光で特大パスタオルを頭から被り、調べる。

すると、カナブンの可能性が濃厚になってきた。

カナブンは換気扇や排水口から入り込むことがあるらしい。


カナブン?背中が緑色でちょっと光ってるあれ?ってなって更に画像を探そうとしたら、


AV女優で金沢文子という人がいて、その人の愛称がカナブンだって出てくるし、今そんなんいらんとよ!ってなるも、どうにか無事カナブンの写真に辿り着く。


やっぱりこれかぁ。



そして、


「餌も水もなけりゃ湿度によるものの

雨も降ってない晴れ空の場合は二日もすりゃ干からびてるでしょう。

死に方としてはなかなか惨たらしい。

なので死んでしまう前にできるだけ外に出そうと努力しましょう。」だって。


努力?どう努力するの?

勘弁してほしいよ。

こんな夜中にしかも集合住宅で、外に追い出すってどうすればいいの。


それにこの部屋でカナブンの亡骸に出くわすなんて、もう私にとってはホラーに近い。


いや、暗闇の部屋のテーブルの下でバスタオルで全身を覆い、真夜中に自分ちなのにこっそりスマホ見てる体(てい)を俯瞰でみたら、よっぽどこっちがホラーかもしれない。


調べ進める。

真っ暗な夜になると、虫の目に見えるのは紫外線という光だけ。 それでまっすぐ電灯に向かっていくのだそうだ。

虫たちが夜、電灯の周りに集まってくるのは、電灯から出ている紫外線のせいらしい。


にっちもさっちもいかなくなった。

ここにやってきたのは明かりに誘導されたのではなく、換気扇や排水口からでしょ。

このところの異常気象や関東も豪雨に見まわれたあのノロノロ台風で虫たちも調子狂ったに違いない。


でもそんなことばかり言ってもいられない。

今窓開けてそこにクリップ式LED電球(それしか無い)を取り付けるというのはどうだろう?


やってみるしかない。

ってことでがんばったよ私


しかし………..敵は全く動く気配はない。

うんともすんとも言わない。

このままじゃ、逆に外から虫が集まってきそうだ。


LED電球を調べる。

市販のLED電球は紫外線を含まない⁈

思わず「だめじゃん。コチュジャン、テンメンジャン!」なんて、くだらない独り言をひそひそ声で言ってみた。

独り言なんか言ったことがない私がだ。



たぶん昼間めっちゃ美味しい中華料理食べた名残りから、こんな単語がスッと浮かんだんだろうけど、こんなくだらないことでも発してないとこの場をやり過ごせないのだ。


独り言というよりもう呪文だ。

そうだ呪文だ。

「だめじゃん、コチュジャン、テンメンジャン」まじで3回唱える私



敵は警戒している。

今は最善策として動かないと決めたらしい。


そうきたら私も腹を括った。

今は何やっても効果は見込めない。

午前4時

冷房22℃に設定し布団を頭まで被って思い切って寝るしかない。

全身布団に隠れたとしてもすぐに眠れる訳ではない。

起きたら、

「布団の上に留まってみたよ」なんてことは絶対に止めてよ。

それでもこの日は2時間ほど眠れたのだろうか。



こんな出来事から一週間が経った。

カナブンのカナちゃん、

あなたが最初に現れた日の2日後の深夜、私が譜面を書いている時、エアコンの上にいて、

カタカタと音を立てたかと思ったら急にまた飛んできてライト周りを旋回したよね。


何で昼間に出てきてくれないの?

昼間だったらまだやりようがあるのに。


私は驚いて思わず床にうずくまった。

キャーって無音で叫びながらあなたを見上げたら、お腹は茶色だった。逆光だからそう見えたの?

まるで蛾みたいだったよ。


無音の悲鳴を上げながら、なす術もなくただただうずくまって恐る恐る見上げるしかなかった。


ライトにもぶつかり、壁にもぶつかって、終いにはCDラックの裏に落ちていったよね。


それからだものね、あなたの気配を感じられなくなったのは。


ごめんね、外に逃してあげられなくて。

今私には、CDを全部取り出してラックを動かして、その向こう側を見る勇気がないよ。


一輪の野花をラックの上に置きお線香を上げたよ。香りは届いてますか?



人は皆生きてると困難の壁にぶつかることがある。

あなたも壁にぶつかりながらもブーンぶーんって飛んでたのは、生きようとしてた最大の証拠、なのに助けてあげられなかった。


気が気じゃなかった3日間、今でもブーンぶーんブーンが耳に残ってる。


目頭が熱くなってきた。

あなたのブーンぶーんは私の好きなKenny Kirklandと同じくらいグルーヴしてたよ。



合掌












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