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小林洋子pianist

改めて向き合う


2012年末、藁をもすがる思いで、東京女子医科大学附属青山病院「音楽家外来」に電話をした際、受付の女性の問いかけに、何とも言えない安堵感で胸が熱くなったのを今でもはっきりと覚えています。 先が見えない大きな不安でいっぱいだったものの、やっと理解不能の自分の手の状態を分かってもらえるところに辿り着いたかという安堵感です。

「専門の楽器は何ですか?」

「ピアノです.....。」

病院に電話をかけ、こんなやり取りが行われようとは想像だにしていませんでした。 ジストニア患者は楽器持参で診察を受け(ピアノは持参できないので診察室に置いてありましたが)、当然ながら、待合室には患者が奏する音が聴こえてきた訳です。 (注:残念ながら現在この青山病院は無くなっています)

両手を鍵盤の上に置くと、右手2の指はピンと上方を差し、右手3,4,5の指は内側に極端に屈曲していました。手を鍵盤から離すと、指は正常なのです。鍵盤に触れるとまた同じことが起こる...。

それでもソファミレドはどうにかこうにか弾けても、ドレミファソは全く弾けないという治療の初期の段階では、極端に単純な動きを用いて、脳を整理することから始める必要がありました。 これが最初の頃のリハビリです。気が遠くなるような時を過ごしました。

指が変な動きをしたり、勝手に動くといった症状も緩和され、無意識下の瞬発力(ある程度の速さ)が必要とされる時期・治療の中期、脳のプログラムを書き換えるためには、相当の集中力、注意力、判断力でもって、自分でやるしかない訳です。 もちろん上手くいくように促して下さるのは主治医の先生ですが、この時期は、症状を再び悪化させずに、現状をキープすることにも工夫を施さなければなりませんでした。

ジストニアに関する文献を参考にし、自分の身体、腕の長さ、手の大きさに合った情報を選択し、リハビリに取り入れました。 万人に当てはまるメソッドは存在しません。

自分の身体と向き合い、手の状態が上向きになっていく様子や自分の感覚、子供のころ実技の練習を始めてから上達してきた過程などと照らし合わせながらのリハビリが私にとっては有効であったように思います。 現在は70~75%程治癒したのではないかと思っています。

2012年2月、それまでに感じたことのない違和感、見たことのない変な指の動きに始まり、 同年12月からリハビリ、服薬4種、ボツリヌス菌投与などの治療を受けてきました。 (頭にメスを入れ、神経の流れに変化をつけるという手術は、私は決心することはできませんでした)その中でリハビリが最も重要・有効であり、2019年現在もリハビリは続けています。

2018年7月には演奏活動再開という夢のような出来事もありました。

演奏活動をしながらの、症状の現状維持はとても大変でした。それを痛感しています。再悪化しているのではと思う瞬間、時期もありました。 未だに32小節のテーマすら弾けないオリジナル曲もあります。

しかしながら、また改めてジストニアと向き合い、自分の手・身体と向き合い、心と向き合い、復帰した中で、現在の手の状態をはっきりと見極め、現状に適切な情報を取り入れること、熟慮し工夫をすることも更に必要だと考えます。

リハビリに長期間を要するため、ややもするとマンネリ化しかねないリハビリ内容を(復帰により実際のステージ上で現状を確認できる瞬間もあり)もう一度見直す機会を与えられたような気がしています。

今もリハビリが続いている中で、自分の手の症状によっての、様々の情報を脳に取り込む「タイミング」と、リハビリ内容にちょっとした変化をつけることも非常に重要なのだと強く思う昨今であります。

完治できる可能性は低いと言われていますが、肉体的・精神的に消耗するのではなく、進歩へのプロセスとなることを信じてやまない。


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